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名古屋地方裁判所 平成元年(行ウ)32号 判決

原告 藤村伸次

被告 愛知県教育委員会

主文

一  被告が原告に対し昭和五六年一〇月一日付けでした原告の同日から同月三一日までの給料及びこれに対する調整手当の合計額の一〇分の一を減ずる旨の減給処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の地位

原告は、昭和四九年四月被告から愛知県碧南市公立学校教員に任命され、昭和五四年四月から昭和五九年三月まで同市立南中学校(以下「南中学校」という。)に教諭として勤務していたものである。

2  本件処分

(一) 被告は、昭和五六年一〇月一日付けで、原告には地方公務員法(以下「地公法」という。)二九条一項一号及び二号の事由があるとして、原告の同日から同月三一日までの給料及びこれに対する調整手当の合計額の一〇分の一を減ずる旨の減給処分(以下「本件処分」という。)をした。

(二) 本件処分の事由は、原告は、〈1〉碧南市教育委員会(以下「市教委」という。)が昭和五六年四月二四日及び同年五月二八日に実施した昭和五六年度定期健康診断に係る胸部エックス線検査を受検せず、また、胸部エックス線検査を受検するよう命じた南中学校校長である近藤彰一(以下「近藤校長」という。)の職務命令を拒否したこと、〈2〉近藤校長が原告のした夏期厚生計画参加のための職務に専念すべき義務の免除申請を不承認としたにもかかわらず、昭和五六年七月一六日欠勤したことがいずれも地公法二九条一項一号及び二号に当たるとするものである。

3  不服申立て

原告は、昭和五六年一一月三〇日付けで、本件処分について愛知県人事委員会に対し不服申立てをしたが、同委員会は、平成元年九月五日付けで本件処分を承認する旨の判定をした。

4  本件処分の違法性

しかし、原告には地公法二九条一項一号及び二号に該当する事由は存在せず、本件処分は違法である。

よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3はいずれも認める。

2  同4は争う。

三  抗弁

以下述べるとおり、本件処分は適法である。

1  本件処分の処分事由

(一) 胸部エックス線検査の受検命令拒否

(1) 胸部エックス線検査の受検義務について

学校保健法(以下「学保法」という。)八条一項は、学校における教職員の定期健康診断の実施を学校設置者に義務づけ、これを受けて、学校保健法施行規則(以下「施行規則」という。)は、その一〇条、一一条で、検査項目、方法等について定めている。その中の検査項目に結核の有無があり、その検査方法はエックス線間接撮影によるものとされている。また、地公法は、その五八条二項が教育の事業に従事する公務員に労働安全衛生法(以下「労安法」という。)の適用を認めているところ、労安法は、六六条一項において、「事業者は、労働者に対し、労働省令に定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。」と規定し、それに基づく労働安全衛生規則(以下「規則」という。)は、四四条で定期健康診断について定め、同条一項で、検査項目を定め、その四号で、施行規則と同様、胸部エックス線検査を検査項目としているし、施行規則及び規則でそれぞれ定める定期健康診断の他の検査項目及び検査方法もほぼ同一である。したがって、学保法八条一項に基づき学校設置者が行う教職員の定期健康診断は、同時に労安法六六条一項に規定する事業者の行う定期健康診断でもある。そして、労安法六六条五項は、「労働者は、前各項の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。」と定め、但書において、「事業者の指定した医師……が行う健康診断を希望しない場合において、他の医師……の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。」と規定しているから、教職員は、学保法八条一項の規定に基づき学校設置者の行う定期健康診断の一項目としての胸部エックス線撮影の受検義務があるというべきである。

(2) 地公法三二条等の定め

地公法三二条は、「職員は、その職務を遂行するに当たって、……上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と規定し、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)四三条二項は、「県費負担教職員は、その職務を遂行するに当たって、……職務上の上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と規定している。

(3) 本件エックス線検査と原告の受検拒否

〈1〉 市教委は、昭和五六年度教職員定期健康診断の一環として胸部エックス線検査を、昭和五六年四月二四日午後一時から、南中学校で実施した(以下「本件エックス線検査」という。なお、後記〈2〉及び〈3〉に係るエックス線検査を含めて「本件エックス線検査」ということがある。)。その際、近藤校長は、本件エックス線検査を予め周知させ、その受検を命じたが、原告は、受検が十分可能であり、かつ、保健主事による再三にわたる受検の督促を受けながら、これを無視し続けて受検しなかった。

〈2〉 その後、公務等の都合で受検できなかった者を対象とする胸部エックス線検査が同年五月二八日に碧南市保健センターで再度実施されることになったため、近藤校長は、原告に対し、同月一六日、一八日、一九日、更に二五日から二八日まで毎日これを受検するよう命じたが、原告はこれを拒否した。

〈3〉 その後、近藤校長は、市教委の指示により、右二度にわたる受検の機会に受検するようにとの職務命令を無視した原告に対し、「大至急、公立病院等でエックス線胸部撮影を受けてください。」と記載された同月二九日付けの文書を交付してエックス線検査の受検を命じたが、原告は、これをも無視して従わなかった。

〈4〉 原告は、近藤校長の〈1〉の職務命令に対しては受検しない理由を述べず、〈2〉の職務命令に対しては、「今までに受けているエックス線の照射量が多いから。」と述べるのみで、具体的にいつ、いかなる理由で、エックス線をどれくらい照射されたか説明せず、この点に関する医師の診断書等も提出しなかった。

〈5〉 原告は、近藤校長から〈3〉の文書による職務命令を受けた後、三か月を経過した後、民間の開業医で、エックス線撮影でなく、喀痰及び血沈検査を受けたが、これは、〈3〉の職務命令と形式的にも実質的にも全く異なる検査を受けたにすぎず、右職務命令を遵守し、忠実に履行したとはいえないし、また、労安法六六条五項但書が定める胸部エックス線検査に「相当する健康診断を受け」たともいえない。

(二) 夏期厚生計画参加不承認と原告の欠勤

(1) 職務専念義務と夏期厚生計画参加の関係について

地公法三五条は、「職員は、法律又は条例に特別の定めがある場合を除くの外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のため用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」としていわゆる職務専念義務を定めている。そして、職務専念義務は、法律又は条例に特別の定めがある場合に限り免除できると定められているとおり、その基本は、公務優先の原則を前提とし、例外的に職務専念義務を免除することが公務の民主的かつ能率的な運営に支障がないと認められる場合のみ、これが免除されるべきものであって、その見地から、免除の手続については、年休における届出制とは異なり、承認制が採用されている。

他方、夏期厚生計画は、地公法四二条に基づき県費負担教職員の服務監督権者である市町村教育委員会が職員の元気回復策として、県立学校職員の例により例年夏期に実施されているが、職員がこの夏期厚生計画に参加する際の服務上の取扱いは、各地方公共団体が制定する職務に専念する義務の特例を規定した条例等の定めるところによるとされており、南中学校職員にあっては、碧南市の制定した碧南市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例(昭和三六年碧南市条例第二三号)の定めるところに従い、市教委の当該職員に対する夏期厚生計画への参加承認によって地公法三五条に規定する職務専念義務が免除されることになる。そして、市教委は、右の承認に係る専決権を校長に与えている。

(2) 本件夏期厚生計画参加申請の不承認と原告の欠勤の経緯

〈1〉 市教委は、市内小・中学校長宛に、公務の円滑な執行に支障を来さない範囲において、i夏期における職員の元気回復を図り、健康の維持向上及び事務能率を増進させることを目的としていること、ii実施期間及び日数は、昭和五六年七月一日から同年九月三〇日までの間において六日の範囲とし、教育職員にあってはその職務の特殊性に鑑み、努めて夏期休業日の期間中に参加すること、iii参加の方法は、公立学校共済組合愛知支部が指定する厚生施設の利用等によること、iv参加手続は、所定の承認簿に参加の方法及び行先を明記し、予め校長の承認を受けること等を内容とする昭和五六年七月二日付け文書を送付し、学校職員に係る夏期厚生計画を県立学校職員の例により実施する旨通知した。

〈2〉 近藤校長は、市教委の右通知を受け、同年七月三日の職員朝礼の際、夏期厚生計画の概要を説明し、また、同月九日の職員会議の際、夏期厚生計画に教員が参加する場合には、授業等に支障のない時期すなわち七月二一日から八月三一日までの間に参加することを原則とし、それ以外の日に参加を必要とする者があれば、相談に応ずる考えのあることを説明した。

〈3〉 原告は、同年七月一五日午前、近藤校長に対し、口頭で翌一六日に全一日の夏期厚生計画参加を願い出た。これに対し、近藤校長は、「一六日は平常日課による授業日であり、授業等に支障があるので、職免は承認できない。仮にどうしても休まなければならない事由があるならば、年休届を提出するように。」と指導した。

近藤校長は、外出していた同日午後頃、原告から右内容の夏期厚生計画参加に伴う所定の書面による休暇・職免承認願の提出を受けた(以下「本件夏期厚生計画参加申請」という。)ため、同日午後三時頃、原告に対し、本件夏期厚生計画参加申請は承認できない旨を伝えてその書面を返却した。その際、近藤校長は、原告に対し、どうしても休まなければならない事由があるならば、年休届を提出するよう指導した。

〈4〉 原告は、右当時、校務分掌として、社会科の授業を週二〇時間、特別活動を週一時間担当するほか、校内組織である管理部に属し、備品、施設、消耗品に関する事務を割り当てられており、同月一六日(木曜日)には、社会科の授業が四時間、特別活動としての通学団会指導(地区の通学団ごとに行われる学校休業中の生徒の生活指導)等が予定されていた。

〈5〉 原告は、近藤校長が原告の本件夏期厚生計画参加申請に対しこれを不承認としたにもかかわらず、年休届を提出することもせず、同月一六日の全一日にわたり欠勤した。

近藤校長は、翌一七日、出勤した原告に対し、年休届を提出するよう指導したが、原告は、本件夏期厚生計画参加申請を承認しない近藤校長を非難するだけで、結局年休届を提出しなかった。

2  1の懲戒事由該当性

(一) 1(一)によれば、原告は、本件エックス線検査を受検すべき義務があるのにこれを受検せず、かつ、上司である近藤校長が再三にわたって発した胸部エックス線検査の受検するようにとの職務命令を殊更に無視し拒否し続けたものといえるから、これは、地公法二九条一項一号の「この法律若しくは第五七条に規定する特例を定めた法律……に違反した場合」及び同条項二号の「職務上の義務に違反し……た場合」に当たる。

(二) 1(二)によれば、原告は近藤校長により本件夏期厚生計画参加申請を不承認とされながら、昭和五六年七月一六日の正規の勤務時間(午前八時一〇分から午後四時五五分まで。但し、休憩時間四五分を含む。)の全部にわたり殊更に勤務しなかったものといえるから、これは、地公法二九条一項一号の「この法律……に違反した場合」及び同条項二号の「職務上の義務に違反し……た場合」に当たる。

3  本件処分の適法性

職員に地公法二九条一項各号に該当する事由が存する場合、被告が懲戒処分をするに当たっていかなる内容の処分を選択するかはその裁量に委ねられているところ、本件では、原告は、自説に固執し、権利の主張のみに走り、殊更に自らに課せられた義務を放擲したものとして、その義務違反の情状が極めて重いといわざるを得ないから、これらの事情を勘案の上された本件処分は、許容される裁量の範囲内でされた相当のものというべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)(1)は争う。

2  同(3)の〈1〉のうち、原告が保健主事による再三にわたる受検の督促を受けながらこれを無視し続けたことを否認し、その余は認める。〈2〉ないし〈4〉はいずれも認める。被告は、原告が具体的にいつ、いかなる理由で、エックス線をどれくらい照射されたか説明もせず、この点に関する医師の診断書等も提出しなかった旨主張するが、近藤校長からエックス線の照射量に関する質問を受けたこともなく、診断書の提出を求められたこともない。原告の「今までに受けているエックス線の照射量が多い」との説明は、エックス線暴露に伴う危険性から考えれば原告の受検拒否の理由として十分である。〈5〉は争う。

3  同1(二)(1)は認める。

4  同(2)の〈1〉は否認する。〈2〉のうち、近藤校長が夏期厚生計画には授業等に支障のない七月二一日から八月三一日までの間に参加することを原則とし、それ以外の日に参加を必要とする者があれば、相談に応ずる考えのあることを説明したことを否認し、その余は認める。近藤校長は、夏期休業中以外の日に夏期厚生計画に参加することは一切認めない態度であった。〈3〉ないし〈5〉は認める。昭和五六年七月一六日当時は、既に期末試験も済み、成績事務も終了し、一学期に予定されていた授業も区切りがついていたのであり、現に近藤校長が原告に対し年休届出の提出を求めていることからすると、年休につき時期変更権を行使するつもりがなかったことが明らかであって、本件夏期厚生計画参加申請を承認するにつき支障はなかった。

5  同2及び3はいずれも争う。

五  原告の主張

本件処分は、以下の理由により違法である。

1  懲戒事由非該当その一

以下の事実によれば、本件処分に当たって、原告が本件エックス線検査の受検を拒否したことをもって地公法二九条一項一号及び二号の懲戒事由に当たると解することは許されないというべきである。

(一) 原告には、本件エックス線検査を受検すべき義務はない。

(1) 学保法八条一項は、学校の設置者に対し教職員に対する定期健康診断の実施を義務づけているものであって、教職員の受診義務を定めたものではない。

被告は、地公法五八条二項が教育の事業に従事する公務員に労安法の適用を認めていること、労安法六六条五項が、「労働者は、前各号の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。」と定めていることをもって、教職員は、学保法八条一項の規定に基づき行う定期健康診断の一項目としての胸部エックス線検査につき受診義務があると主張するが、仮に教職員に対し労安法の適用があるとしても、労安法六六条五項の規定が直ちに教職員に対する受検義務を認める根拠となるものではない。被告は、右の受検義務の根拠として、施行規則九条ないし一一条に教職員に対する定期健康診断の際の検査項目として「結核」の有無、その検査方法として「エックス線間接撮影」が規定されていることを挙げているが、健康診断の検査項目・方法等についての技術的基準について定めた施行規則の規定から教職員のエックス線検査の受検義務があることを基礎づけることには論理の飛躍がある。

また、事業者が、労安法六六条一項ないし三項、六項に違反した場合には罰則の定めがあるのに対し、同条五項違反については罰則がないことからも明らかなように、同条五項の定めは、労働者の健康管理を十全ならしめるため規定されているものであり、労働者に対する不利益制裁の根拠となるものではない。

(2) 被告は、施行規則九条ないし一一条が、学校設置者の実施する教職員に対する健康診断の検査項目の一つとして結核の有無を挙げ、その検査方法はエックス線間接撮影によるものとされている旨主張する。しかし、施行規則が規定するエックス線間接撮影による結核検査は、以下のとおり、エックス線が人体に有害であって、その暴露量が増加するに従って癌の発生率が増加したり、遺伝因子に悪影響を与えるものであり、このことは医学界の常識となっていること、特に、エックス線間接撮影は照射量が多く、有害性が高いこと、他方、肺結核の発生率は今日極めて低いことに照らすと、不合理である。

〈1〉 エックス線検査で放射線に暴露することによる悪影響として代表的なものには遺伝的影響及び悪性腫瘍の誘発があり、その場合、低線量暴露の危険を軽視してはならないとされ、国際放射線防護委員会(ICRP)は、制御できる放射線暴露について、次の三つの原則を提唱し、これが医療暴露の基本的ルールとなっている。そして、この三つの原則は、放射線による検診につき被験者が同意している場合にも遵守されるべきルールとされている。

i 不必要な放射線暴露を避けること(正当性)

放射線暴露によるリスクを上回る利益がない限り、その放射線被曝は不必要と判断されるべきであり、また、放射線被曝を伴わない他の方法で同じ効果が得られる場合には、その方法と放射線利用の方法の各利益と各リスクを相互比較していずれを選ぶかを決めるべきである。

ii 暴露線量は、できるだけ低く保つこと(最適化)

放射線暴露が不可欠なものであると判断され、放射線暴露を伴う行為を実際に行う場合、放射線暴露をできるだけ少なくする努力・工夫をしなければならない。

iii 一定レベルを超えて暴露しないこと

i及びiiの条件が満たされている場合でも、ICRPが勧告する一定のレベル(線量当量限度)を越えて暴露してはならない。

線量当量限度は、昭和五二年当時は一般人で一年間に五ミリシーベルト(〇・五レム)、昭和六一年当時は原則として一年間に一ミリシーベルトと改められ、平成二年には「連続するどの五年間についても平均一ミリシーベルト」とするよう提案されている。

〈2〉 昭和五六年時点までに、四〇歳未満の年齢層の労働者を対象とした胸部エックス線撮影については、リスクが大きく、その実施は必ずしも正当化されないと医学専門家による報告があり、世界的に見て、エックス線間接撮影による集団検診を中止する傾向が顕著となっている。

〈3〉 日本でも、昭和五六年六月一九日に公衆衛生審議会結核予防部会が「結核の健康診断の実施方法について」と題する答申を行って、若年層における定期検診の見直しを提言し、これを受け、昭和五七年には、「若年層の結核の罹患状況の著しい改善により定期健康診断において患者発見率が低下したこと、早期発見による結核予防の効果をエックス線間接撮影における健康上の危険とのバランス等を考慮し」て、施行規則が一部改正され、結核の定期健康診断の実施が縮小された。

〈4〉 学童生徒に対する胸部エックス線撮影は、従来年一回以上とされていたが、昭和四九年からは、小学生は入学時のみ、中学生は二年生のときのみとされ、昭和五九年からは、高校生も三年間に一回とされた。

市教委自身、本件処分時には、施行規則に特に規定がないのに、妊娠中の女子職員についてはエックス線撮影の受検を免除していた。

(3) 原告は、結核の既往症がないことはもちろん、結核に罹患していることを窺わせる兆候もなく、かえって、後記3(一)のとおりの喀痰検査等の結果異常なしの結果を得ているのであるから、結核に罹患しているとは考えられない状況にあった。

(4) 原告は、過去において相当のエックス線暴露歴があり、昭和四九年当時からエックス線検査を有害と考え、これ以上のエックス線暴露に強い危機感を持ち、昭和五二年を除き、昭和五〇年から昭和五四年まで毎年エックス線検査を受検していなかった。

(5) 以上からすると、原告に胸部エックス線撮影を命ずる根拠はないというべきである。

(二) それにもかかわらず、原告には本件エックス線検査を受検すべき義務があることを前提に、近藤校長の本件エックス線検査の受検命令がされた点で、同受検命令は違法であって、これを正当化する根拠はなく、したがって、近藤校長の違法な受検命令に係る本件エックス線検査を原告が拒否したことには理由がある。

2  懲戒事由非該当その二

以下の事実によれば、本件処分に当たって、原告が欠勤した事実をもって地公法二九条一項一号及び二号の懲戒事由に当たると解することは許されない。

(一) 昭和五六年度の夏期厚生計画について、被告、愛知県小中学校校長会及び愛知県教員組合の三者で、夏期休業中以外の期間である昭和五六年七月一日から二〇日までの間及び同年九月一日から三〇日までの間において、授業等に支障のない範囲で各一回の夏期厚生計画参加を認める旨合意されていた。また、愛知県内の多数の小中学校では、夏期休業中以外の期間において、一日ないし二日間夏期厚生計画へ参加が認められていた。

(二) ところが、近藤校長は、右三者間の合意を無視して、夏期厚生計画は夏期休業中に取るよう指示し、夏期休業中以外の期間の夏期厚生計画参加を認める意思は全くなかった。

(三) 原告は、同年七月一五日、期末試験、成績事務も終了し、一学期に予定していた授業も区切りがついたところで、翌一六日に本件夏期厚生計画参加申請をした。近藤校長は、(一)の三者合意に基づきこれを承認するべきであったにもかかわらず、(一)の三者合意に違反し、(二)の見地だけから不承認としたもので、その権限を濫用した違法がある。

3  判断の合理性逸脱

(一) 原告は、昭和五六年九月四日、名古屋市中区新栄町栄第一生命ビル所在の浅野病院で喀痰検査及び血沈検査を受け、同年一〇月九日付けで異常なしとの検査結果を得て、これを近藤校長に報告した。

(二) 労安法六六条五項が、「労働者は前各号の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときはこの限りでない。」と定めていることに照らしても、原告が(一)の喀痰検査及び血沈検査を受け異常なしとの検査結果を得ているのに、なお、原告が本件エックス線検査を拒否したことを問責するのは、本件処分をするに当たっての判断として合理的許容限度を超える。

4  適正手続違反

地公法二九条に基づく懲戒処分は被処分者にとって不利益処分であり、その処分に先立ち、適正な手続の保障として、被処分者に処分とされるべき事実を告知し、その弁明の機会が与えられるべきであり、その手続を欠いた処分は右適正手続に違反したものとして取り消されるべきである。

これを本件に即していうと、第一に、市教委が愛知県教育委員会に対し、内申を提出する段階で、市教委が原告に対し処分すべき事実を開示して原告の弁明を求め、第二に、被告は内申書を受領した段階で原告に処分すべき事実を開示して原告の弁明を求める手続を履践すべきであったというべきであるにもかかわらず、これらの手続は何ら履践されることがなかった。

5  裁量権の濫用(動機の違法)

原告は、本件処分までに、近藤校長の学校運営に関し、以下のとおり、異議を唱えてきたが、本件処分は、それに対する報復としてされたものであり、エックス線検査の受検拒否を理由に懲戒処分がされた例は全国的にないことからもそのことが窺われ、したがって、本件処分は処分権を濫用したものとして違法である。

(一) 愛知県下の小中学校では、教諭一人当たり五万円以上の県費旅費が予算化されているところ、碧南市内の小中学校では、研修旅行が校長によってなかなか承認されない実情にあり、かつ、県費旅費に関する経理内容が一切公開されていなかったため、原告は、碧南市立日進小学校在職当時、同小学校の校長であった近藤校長に対し、昭和五三年度県費旅費に関する公開を要求するとともに、これに関連して、原告が同校教頭新実坂夫に対し県費旅費の請求を委任するとの委任状が無断で作成されて被告に提出されていた事実に関し、同年九月一一日付けで委任状無効届を提出した。

(二) 原告は、昭和五六年度にも、近藤校長に対し、県費旅費の使途、経理の公開を求めて、これを拒否され、また、昭和五七年四月二六日付けで、県費旅費請求のための委任状の解任届を被告に提出した。

(三) 昭和五三年当時、近藤校長が業者から贈られたトレーニングウェアを全職員に配布したが、原告はこれを返却した。

(四) 原告は、昭和五六年度に、近藤校長に対し、超過勤務に関し改善を求めたが、改善されなかったため、昭和五六年六月二六日付けで、愛知県人事委員会に対し、勤務時間に関する措置要求をした。

(五) 原告は、昭和五六年四月当初、近藤校長が学年主任、社会科主任に指示して社会科の副教材二点を生徒に配布しようとした際、了解していないとして抗議し、かつ、これらを使う予定のないものとして返品した。

(六) 南中学校では、中間、期末試験において、原告が作成する試験問題を原告が授業を受け持っているクラスで実施することが差し止められ、学年統一の名の下に他の教諭が作成した試験が実施されていたため、原告は、昭和五六年度に、近藤校長に対し、原告作成の試験を実施するよう求めたところ、近藤校長は、同年六月二九日、職務命令をもってこれを禁止した。

(七) 南中学校では、全学年について業者テストを受験させ、これを授業時間中に行ったり、教師を半強制的に監督に就かせたりしていたが、昭和五六年度中、原告は、近藤校長に対し、業者テストの実施に反対する旨の意思表示をした。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし3の各事実はいずれも当事者間に争いがない。そこで、本件処分の違法性について判断する。

二  証拠(甲第一号証、第一一ないし第一三号証、第一四号証の一ないし三、第一五ないし第一八号証、第二〇号証、第三七ないし第三九号証、第四二号証、乙第一号証の二ないし九、第三ないし第五号証、第七号証の一、二、第一八、第一九号証並びに証人近藤彰一、同鳥居拓及び原告本人の各供述)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件エックス線検査と原告の受検拒否

(一)  市教委は、昭和五六年度教職員定期健康診断の一環として本件エックス線検査を、昭和五六年四月二四日午後一時から、南中学校で実施した。その際、近藤校長は、本件エックス線検査を予め周知させ、その受検を命じたが、原告は、特段理由を述べることもせずにこれを受検しなかった。

(二)  その後、公務等の都合で受検できなかった者を対象とする胸部エックス線検査が同年五月二八日に碧南市保健センターで再度実施されることになったため、近藤校長は、原告に対し、再三にわたってこれを受検するよう命じたが、原告は、病気治療のためのエックス線検査による過去のエックス線暴露歴が多くこれ以上の暴露を避けたい旨の意思を表明して、これを拒否した。

(三)  その後、近藤校長は、市教委とも相談の上、中学校教員として日常多数の中学校生徒に接触する立場にある原告が万が一結核に罹患しこれを生徒に集団感染させるおそれがあってはならないとの見地から、原告に対し、「大至急、公立病院等でエックス線胸部撮影を受けてください。」と記載された同月二九日付けの文書を交付して受検を命じた。

2  本件夏期厚生計画承認申請に対する不承認と原告の欠勤

(一)  地公法四二条に基づき県費負担教職員の服務監督権者である市町村教育委員会は、職員の元気回復策として、夏期厚生計画を県立学校職員の例により例年夏期に実施しているが、職員がこの夏期厚生計画に参加する際の服務上の取扱いは、各地方公共団体が制定する職務に専念する義務の特例を規定した条例等の定めるところによるとされており、南中学校職員にあっては、碧南市の制定した碧南市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例(昭和三六年碧南市条例第二三号)の定めるところに従い、市教委の当該職員に対する夏期厚生計画への参加承認によって地公法三五条に規定する職務専念義務が免除されることになる。そして、市教委は、右の承認に係る専決権を校長に与えている。

(二)  市教委は、市内小・中学校長宛に、公務の円滑な執行に支障を来さない範囲において、i夏期における職員の元気回復を図り、健康の維持向上及び事務能率を増進させることを目的としていること、ii実施期間及び日数は、昭和五六年七月一日から同年九月三〇日までの間において六日の範囲とし、教育職員にあってはその職務の特殊性に鑑み、努めて夏期休業日の期間中に参加すること、iii参加の方法は、公立学校共済組合愛知支部が指定する厚生施設の利用等によること、iv参加手続は、所定の承認簿に参加の方法及び行先を明記し、予め校長の承認を受けること等を内容とする昭和五六年七月二日付け文書を送付し、学校職員に係る夏期厚生計画を県立学校職員の例により実施する旨通知した。右通知に先立ち、右の夏期厚生計画期間のうち同年七月一日から同月二〇日までの間及び九月一日から同月三〇日までの間のいわゆるはみだし部分に関する合意として、愛知県小中学校長会及び愛知県教員組合は、同年六月一八日、授業等に支障のない範囲でそれぞれ一回の夏期厚生計画参加を認める旨の合意を口頭で行い、また、碧南市小中学校長会及び碧南市教員組合も、同年七月二日、右のいわゆるはみだし部分について授業等に支障のない限り夏期厚生計画参加を一回認めるよう努力する旨の合意を口頭で行っていた。近藤校長は、右口頭合意等の情報をすべて得ていたが、同年七月三日の職員朝礼の際及び同月九日の職員会議の際に、夏期厚生計画に教員が参加する場合には、夏期休業期間中である七月二一日から八月三一日までの間に六日間参加するように指示しただけで、それ以上の説明はしていなかった。

(三)  原告は、右(二)のいわゆるはみ出し部分についての合意につき他から情報を得ていたため同年七月一日から同月二〇日までの間に夏期厚生計画に一回参加できると考え、同年七月一五日、近藤校長に対し、本件夏期厚生計画参加申請をした。これに対し、近藤校長は、本件夏期厚生計画参加申請に係る参加予定日である同月一六日(木曜日)には、原告の社会科の授業が四時間、特別活動としての通学団会指導(地区の通学団ごとに行われる学校休業中の生徒の生活指導)等が予定されていたため、これを不承認とし、どうしても休まなければならない事由があるならば、年休届を提出するように求めた。

(四)  原告は、近藤校長が原告の本件夏期厚生計画参加申請に対しこれを不承認としたにもかかわらず、同月一六日の全一日にわたり出勤しなかった。近藤校長は、翌一七日、出勤した原告に対し、年休届を提出するよう指導したが、原告は、前記(二)の合意に反して本件夏期厚生計画参加申請を承認しない近藤校長を非難し、年休届は結局提出しなかった。

(五)  なお、昭和五六年度の夏期厚生計画につき前記(二)のいわゆるはみ出し部分についてこれに参加承認された者は、碧南市の小中学校教員は一人もいなかったが、名古屋市、西尾市等の愛知県の他の地域の小中学校では、予めローテーションを組むことによりこれに参加できた教員が多く、碧南市の小中学校でも、翌年の昭和五七年には、予めローテーションを組むことでほぼ全員の教員がこれに参加できるようになった。

3  原告は、前記1(三)の文書による職務命令を受けた後もエックス線検査を受検しなかったこと及び前記2(四)の本件夏期厚生計画承認申請につき不承認とされたにもかかわらず出勤しなかったこと等に関し、同年八月一日、市教委から呼び出しを受け、教育長の中根仙吉及び指導室長の鳥居拓から釈明を求められたが、従前近藤校長に対して主張していたことを繰り返し述べ、話し合いは平行線を辿ったままに終わった。

4  その後、近藤校長は、右1ないし3の事実経緯に鑑み、原告の懲戒処分について市教委と協議し、市教委は、被告に対し本件処分についての内申をした。これを受けて、被告は、同年一〇月一日付けで本件処分をした。

5  その間、原告は、同年九月四日、結核の有無を検査するため、開業医である浅野晴義医師による喀痰検査及び血沈検査を受け、右検査を受けたことを同月一一日近藤校長に報告したが、近藤校長は、受検を命じたのは喀痰検査などではなくエックス線検査であると言ってこれを取り上げず、また、近藤校長から報告を受けた市教委でもこれをエックス線検査に代わるものとして考慮する必要を認めず、被告に対し連絡するようなこともなかった。その後同年一〇月九日にいずれも異常なしとの検査結果が出たため、原告は、これを近藤校長に報告するとともに、市教委に対し、その旨内容証明郵便により通知した。

三  本件エックス線検査の不受検及び受検命令拒否の懲戒事由該当性について

1  ところで、本件処分の懲戒事由の一つとされたのは、〈1〉原告が本件エックス線検査を受検しなかった事実、及び〈2〉原告が近藤校長の本件エックス線検査を受検するようにとの職務命令を拒否した事実であることは、前記二の認定事実から明らかであるところ、被告は、右〈1〉及び〈2〉の各事実の懲戒事由該当性について、右〈1〉の事実については、原告には本件エックス線検査を受検すべき法令上の義務があるのにこれを受検しなかったとして、これが、職員がその職務を遂行するに当たって法令に従わなければならない旨定めた地公法三二条に違反し、したがって、地公法二九条一項一号の「この法律……に違反した場合」に該当し、右〈2〉の事実については、上司である近藤校長から本件エックス線検査を受検するようにとの職務命令を受けながらこれを拒否したとして、これが、職務を遂行するに当たり上司の職務上の命令に忠実に従うべき職員の義務を定めた地公法三二条及び地教行法四三条二項の各規定に違反し、したがって、地公法二九条一項二号の「職務上の義務に違反し……た場合」、及び同条項一号の「この法律若しくは第五七条に規定する特例を定めた法律……に違反した場合」に各該当する旨主張している。したがって、右〈1〉の原告が本件エックス線検査を受検しなかった事実をもって地公法二九条一項一号に、右〈2〉の原告が被告の本件エックス線検査を受検するようにとの職務命令を拒否した事実をもって同条項二号及び一号に各該当すると判断することができるかどうかは、前者については、原告がその職務遂行上本件エックス線検査を受検すべき義務を負う旨の法令上の根拠があるか否かに、後者については、原告が本件エックス線検査を受検するよう命じた近藤校長の職務命令に従うべき「職務上の義務」が認められるか否かにそれぞれかかっているということができる。そこで、以下順次、これらの点について検討することとする。

2  (一) 学校教育法一二条は、「学校においては、別に法律で定めるところにより、学生、生徒、児童及び幼児並びに職員の健康の保持増進を図るため、健康診断を行い、その他その保健に必要な措置を講じなければならない。」と規定し、同規定を受けて、学保法は、学校の職員(以下「教職員」という。)の健康の保持増進を図るため、八条一項で「学校の設置者は、毎学年定期に、学校の職員の健康診断を行わなければならない。」と定めて、教職員の定期健康診断の実施を学校設置者に義務づけている。そして、学保法一〇条は、右の定期健康診断の方法及び技術的基準並びにその健康診断の時期及び検査の項目その他健康診断に関し必要な事項についてはいずれも文部省令で定める旨規定している。同規定に基づきこれを実施するために定められた施行規則は、九条及び三条で、教職員の定期健康診断の時期を、原則として、毎学年六月三〇日までに行うものとし、一〇条一項で、定期健康診断の検査の項目として一一の項目を定め、その一つとして「結核の有無」を定め(同条項三号)、一一条で、定期健康診断の方法及び技術的基準を定め、特に、右の「結核の有無」の検査項目については、「エックス線間接撮影により検査するものとし、エックス線間接撮影によって病変の発見された者及びその疑いのある者、結核患者並びに結核発病のおそれがあると診断されている者に対しては、エックス線直接撮影及び喀痰検査を行い、更に必要に応じ聴診、打診その他必要な検査を行う。」と規定している。

前記二の認定に係る本件エックス線検査が学保法の右規定を根拠とする教職員の定期健康診断として実施されたことは明らかであるところ、右の規定内容によれば、学保法が、学校設置者に対し、教職員の健康の保持増進を図る目的で教職員の定期健康診断を実施すべき義務を負わせていることは明らかであるが、それ以上に、学校設置者が実施する定期健康診断を教職員が受診すべき義務を負う旨定めた規定は存しない。この点に関し、被告は、学校が教職員と学校生徒とが接触する職場であることに鑑みると、学校生徒への感染のおそれを予防する見地から、教職員の右受診義務を肯定すべきである旨主張しているようにもみえる。学保法は、一条に規定するとおり、生徒等及び教職員の健康の保持増進を図り、「もって学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資すること」をその目的としているが、右目的から直ちに教職員の右受診義務を導くことはできず、かえって、これを認めた直接の規定がないところからすると、学保法は、直接には健康診断の実施を学校設置者に義務づけることで教職員の個々人につきその健康の保持増進を図り、そのことによって、ひいては学校教育が生徒等や教職員の病気等のため滞ることなく、円滑に実施され、その成果が得られることに資することを目指したものというべきであって、それ以上に、教職員の右受診義務を認めることまでも定めたものではないと解するのが相当である。したがって、学保法の規定のみから、原告の本件受検義務を根拠づけることはできない。

(二) 労安法は、地公法五八条により特に適用が除外されている労安法第二章の規定及び九二条の規定以外は、職員(一般職に属する地方公務員)に適用されるものであるところ、労安法は、六六条一項において、「事業者は、労働者に対し、労働省令に定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。」と規定して事業者に対し労働者の健康診断の実施を義務づけ、同条項の規定に基づき、規則四四条一項は、定期健康診断の具体的な項目の一つとして「胸部エックス線検査及びかくたん検査」を定めている(同条項四号)。また、規則四六条は、右の定期健康診断の際結核の発病のおそれがあると診断された労働者に対し、その後おおむね六月後に、「エックス線直接撮影による検査及びかくたん検査」及び「聴診、打診その他必要な検査」について医師による健康診断を行わなければならない旨定めている。そして、労安法六六条五項は、「労働者は、前各項の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。」と規定している。

(三) また、結核予防法は、四条一項において、「労働安全衛生法第二条第三号に規定する事業者……は、……当該事業者の行う事業において業務に従事する者……に対して、政令で定める定期において、……定期の健康診断を行わなければならない。」と規定して、労安法上の事業者に対し定期健康診断の実施を義務づけ、その健康診断の方法として、六条において、「前二条に定める健康診断は、ツベルクリン反応検査、エックス線検査その他省令で定める方法によって行うものとする。」と規定し、同規定に基づく結核予防法施行令及び結核予防法施行規則は、エックス線検査として、一九歳に達した者については毎年度エックス線間接撮影の対象者となる旨規定し(同施行令二条五号、同施行規則三条三号)、結核予防法七条一項においては、「第四条第一項……の健康診断の対象者は、それぞれ指定された期日又は期間内に、事業者……の行う健康診断を受けなければならない。」と規定して、事業者が実施する定期健康診断を受診すべき義務を定めている。そして、結核予防法四条四項は、「第一項の健康診断の対象者に対して労働安全衛生法、学校保健法その他の法律又はこれらに基づく命令若しくは規則の規定によって健康診断が行われた場合において、その健康診断が第一二条の規定に基づく省令で定める技術的基準に適合するものであるときは、当該対象者に対してそれぞれ事業者又は学校若しくは施設の長が、第一項の規定による健康診断を行ったものとみなす。」と規定している。

(四) ところで、先に述べたとおり、本件エックス線検査が学保法を根拠とする教職員の定期健康診断として実施されたものであることは明らかであるが、それと同時に、労安法等の右規定を根拠とする教職員の定期健康診断として実施されたものでもあるといえるのかどうかは、必ずしも明らかでないので、一応、本件エックス線検査が労安法の規定を根拠とする教職員の定期健康診断としても実施されたものでもあるとした上での判断を以下進める。

労安法六六条五項が、「労働者は、前各項の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。」と規定し、また、結核予防法七条一項が、「第四条第一項……の健康診断の対象者は、それぞれ指定された期日又は期間内に、事業者……の行う健康診断を受けなければならない。」と規定して、いずれも事業者が実施する定期健康診断を受診すべき義務を定めていることは先にみたとおりであるところ、右各規定は、一方では、事業者に対して労働者(業務従事者)の健康の維持・増進ないし結核の予防等を図る見地から定期健康診断の実施を義務づけている反面、労働者(業務従事者)に対して、その健康診断による利益を享受する立場からこれに協力すべき責務を課するという観点から、これを受診すべき義務を定めたものと解され、それ以上に、労働者(業務従事者)の職務遂行上の義務として右の受診義務を定めたものとは解されない。しかも、事業者の実施するこれらの定期健康診断等は元来労働者の健康確保ないし結核の予防等の目的から設けられた制度であること、労安法六六条五項に規定する労働者の受診義務は、同条項の但し書により、他の医師による健康診断結果を証明する書面を提出しさえすれば、これが免除されることとされていること、労安法上、事業者の定期健康診断実施義務等の違反については罰則の定めがあるのに対し、労働者の右受診義務違反については罰則の定めはないこと、結核予防法に基づく右の定期健康診断受診義務違反についても罰則の定めはないこと等に照らせば、右の各規定はこれをいわゆる訓示規定にとどまるものと解さざるを得ないというべきである。したがって、これらの規定に違反したことをもって、地公法二九条一項一号に違反すると解することはできないというべきであり、そうである以上、原告が本件エックス線検査を受検しなかった事実をもって、地公法二九条一項一号に該当するといえないことは明らかというべきである。結局、この点に関する被告の主張は採用できない。

3  (一) そこで次に、原告につきエックス線検査を受検するよう命じた近藤校長の職務命令に従うべき「職務上の義務」が認められるか否かについて検討する。

被告は、原告が上司である近藤校長のエックス線検査を受検するようにとの職務命令を拒否した事実が、職務を遂行するに当たり上司の職務上の命令に忠実に従うべき職員の義務を定めた地公法三二条及び地教行法四三条二項の各規定に違反し、したがって、地公法二九条一項二号の「職務上の義務に違反し……た場合」、及び同条項一号の「この法律若しくは第五七条に規定する特例を定めた法律……に違反した場合」に各該当する旨主張している。

地公法三二条及び地教行法四三条二項は、いずれも、職員は、その職務を遂行するに当たって、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない旨定めているところ、近藤校長が原告に対し右職務命令を発したのは、中学校教員として日常多数の中学校生徒に接触する立場にある原告が万が一結核に罹患しこれを生徒に集団感染させるおそれを未然に防止するという、中学校の統括管理者の立場からすれば、職務上至極もっともな理由によるものであることは前記二の認定事実から明らかである。したがって、原告がその職務遂行上本件エックス線検査を受検すべき義務を負う旨の法令上の根拠はないという前記2の判示内容から直ちに、近藤校長が発した右職務命令が許されず違法であって、原告には右職務命令に従うべき職務上の義務はないと速断することはできないというべきである。もっとも、学保法、労安法及び結核予防法のいずれの規定を根拠とするにしても、定期健康診断における検査が、実際上、受診者の身体に対する侵襲を伴い、危険・有害である場合もあることは否定できない上、健康診断の項目ないしその検査方法については、専門医学的な知見の進歩・発展に伴って不断に見直され改善されていくべき性質のものであることも見易い道理であり、そうであればこそ、定期健康診断についてその手段ないし技術ともいえる具体的な検査項目ないし検査方法について医学の進歩に柔軟かつ迅速に対応できるようこれを法律ではなく規則で定めることとされているものと解されること等に照らすと、近藤校長の発した右職務命令に原告が従う職務上の義務を負うかどうかは、定期健康診断においてエックス線検査の受検を命じることの医学的相当性の有無、エックス線検査に代替し得る他の医学的検査の有無とその代替的検査の受検の有無等の諸般の事情を総合考慮してこれを判断すべきであると解するのが相当である。そして、右の医学的相当性の有無については、一面では所定の当該検査項目・方法を受診者に実施することについての有用性を考慮するとともに、他面ではこれを実施することの危険性の有無及びその程度をも考慮し両者を比較勘案の上で判断すべきものと解するのが相当であり、かつ、その判断に当たっては、当該懲戒処分当時における医学的知見ではなく、現在のそれに照らして判断するのが相当である。けだし、右の判断は、医療事故における医師の過失による損害賠償責任の有無を当該事故当時の医学水準を基準として判断するような場合とは異なり、行政処分としての本件処分の取消訴訟において、本件処分が客観的に違法であるか否かを審査する前提問題(地公法二九条一項一号の「職務上の義務」の有無)を判断するという場面であり、しかも、どの時点の医学的水準により判断すべきかは、右前提問題の判断そのものではなく、その判断の前提事実を確定するために用いる科学的経験則の適用の問題であって、従来の医学的知見の誤りが指摘されたり、従来の医学的知見では未だ解明されていなかった新たな知見が得られたような場合には、現在の到達点としての新たな医学的知見により判断することで初めて客観的な前提事実が確定され、その結果右前提問題の判断、ひいては本件処分当時におけるその違法性の判断が正当になされる関係にあるものと解されるからである。この点に関し、被告は、本件処分当時における医学的知見によって判断すべき旨主張するが、右判示したところからして、これを採用することはできない。

(二) 胸部エックス線検査についての医学的見解等

証拠(甲第二ないし第五号証、第八号証の二、第二一、第二二号証、第二四ないし第二六号証、第七二ないし第七六号証、第八六ないし第九〇号証、乙第一二ないし第一六号証及び証人山田真の証言)によれば、以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1)  胸部エックス線検査の結核の検査方法としての医学的有用性

〈1〉 従来、肺結核のほとんどが、肺尖部等の肺の上部に出現した病変がゆっくりと下方の肺全体に徐々に拡がり、慢性的に進行するものと考えられており、したがって、その肺尖部の病変を発見すれば結核の早期発見となり、その早期治療も可能となるとされていたため、胸部エックス線検査を実施することが肺結核の早期発見方策として最良の手段と解され、その見地から、世界的に結核の検査方法としてエックス線検査が採用され、これが年一回の集団検診として実施されていた。労安法六六条五項に基づく定期健康診断、学保法八条一項に基づく定期健康診断及び結核予防法四条一項に基づく定期健康診断においても、右の見地から結核の検査として胸部エックス線検査が採用されたものである。

〈2〉 ところが、その後、肺結核についてそれが慢性的に進行するケースは老人に多く、四〇歳位までの患者では、短期間のうちに急速に進行し発病するラピッドケース(迅速発病例)と呼ばれる類型のものが多いことが認識され、しかも、このようなケースでは、その大部分が咳、痰、発熱等の呼吸器症状を訴えるため、医療機関で受診すれば、喀痰検査により容易に診断できることが分かってきた。そして、肺結核の発症類型として右のケースが少なくないことからして、胸部エックス線検査が肺結核の早期発見方策として効率的であるかどうかについては医学的に疑問が持たれるようになった。

〈3〉 わが国において、結核は、昭和二六年から三〇年間の間に、環境衛生の改善、結核治療学の進歩、個体の栄養状態・健康状態の改善等により、その死亡率が二〇分の一に、罹患率が一二分の一に、感染危険率が年間二・二パーセントから〇・一パーセントに減少したが、集団検診での患者発見率も〇・四パーセントから〇・〇一パーセントに減少するに至っている。

(2)  胸部エックス線検査の危険性(有害性)

放射線とは、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線等、大きなエネルギーを有する粒子や電磁波の総称である。このような放射線に人体が暴露する機会としては、宇宙線や大気中等に存在する自然放射線による暴露以外に、人工的な放射線による暴露の機会が増大してきており、その中には職業上の暴露や人為的放射線による暴露もあるが、暴露の機会として大きな割合を占めるのは医学的な診断、治療の過程で受ける医療用放射線(エックス線)による暴露であるとされている。

放射線の暴露が人体に及ぼす影響には、暴露した本人に対する身体的影響と、子孫に対する遺伝的影響があり、前者は、更に、数週間以内に起こる急性放射線障害と、数年後に起こる晩発性障害に大別され、晩発性障害として、白血病・悪性腫瘍の発現、白内障等の組織に対する局所的傷害、胎児への影響、寿命の短縮が起こるものとされている。そして、このような放射線障害について、一定の閾値を超えて初めて障害が現れる場合を非確率的影響といい、白内障等がこれに含まれるのに対し、閾値が存在せず確率的に起こる場合を確率的影響といい、白血病・悪性腫瘍の発現や遺伝的影響が確率的影響として発生するとされる。このように、白血病・悪性腫瘍の発現及び遺伝的影響が確率的影響として生じ、その場合、閾値が存在しないために、低線量暴露、例えば胸部エックス線検査による暴露の危険を軽視することはできない。

そのような観点から、国際放射線防護委員会(ICRP)は、制御できる放射線源から発生する放射線による暴露について、その損益を十分考えて暴露の価値があると結論付けられた行為に対し、線量制限の体系を勧告し、特に次の三つの項目を提唱している。

a 不必要な放射線暴露を避けること

放射線暴露によるリスクを上回る利益がない限り、その放射線暴露は不必要と判断されるべきであり、また、放射線暴露を伴わない他の方法で同じ効果が得られる場合には、その方法と放射線利用の方法の各利益と各リスクを相互比較していずれを選ぶかを決めるべきである。

b 暴露線量は、できるだけ低く保つこと

放射線暴露が不可欠なものであると判断され、放射線暴露を伴う行為を実際に行う場合、放射線暴露をできるだけ少なくする努力・工夫をしなければならない。

c 一定のレベルを超えて暴露しないこと

a及びbの条件が満たされている場合でも、ICRPが勧告する一定のレベル(線量当量限度)を越えて暴露してはならない。線量当量限度は、昭和五二年当時は一般人で一年間に五ミリシーベルト(〇・五レム)、昭和六一年当時は原則として一年間に一ミリシーベルトと改められ、平成二年には「連続するどの五年間についても平均一ミリシーベルト」とするよう提案されている。

(3)  集団検診における胸部エックス線検査の実施を巡る動向

〈1〉 WHOの第八回及び第九回専門委員会報告

WHOの第八回専門委員会は、昭和三九年、胸部エックス線検査の有用性に対する疑問及びその有害性に照らして、エックス線検査を中心とした集団検診が意味を失った旨の報告をし、その後昭和四九年には、WHOの第九回の専門委員会で右の第八回専門委員会の報告をそのまま確認している。

〈2〉 東京大学放射線健康管理学教授である吉沢康雄らの研究報告によれば、労働者の健康診断における胸部エックス線検査の放射線暴露によるリスクと、診断上の情報として得られたベネフィットを比較検討した結果、集団検診としての胸部エックス線検査は、四〇歳未満の年齢層の労働者を対象とした場合は、リスクの方が明らかに大きく、その実施は必ずしも正当化されない旨結論付けられている。

〈3〉 公衆衛生審議会結核予防部会は、昭和五六年六月一九日に「結核の健康診断の実施方法について」と題する答申を行ったが、そこでは、若年層の結核の罹患率の減少により定期健康診断による患者発見率は今後更に低下することが見込まれること、この若年層については、体力に自信があること等により医療機関等に受診する割合が少なく、定期健康診断による発見への依存度が他の年齢層に比べてやや高いこと、患者発見率の低下に伴い、健康診断におけるエックス線の利用についても、早期発見による結核予防上の効果と放射線暴露による危険とのバランスも考慮に入れながら検討を加える必要があるとして、若年層における定期検診の見直しを提言し、これを受け、昭和五七年には、学校保健法施行規則が一部改正され、結核の定期健康診断の実施が縮小された。

また、右の答申では、「結核まん延状況は今後も改善が続くと考えられるので、近い将来一九歳以上の者に対する定期の健康診断については大幅な見直しを行うことが必要になるものと考えられる。」旨述べられている。

〈4〉 学童生徒に対する胸部エックス線撮影は、従来年一回以上とされていたが、昭和四九年からは、小学生は第一学年だけ、中学生は第二学年だけとされ、昭和五九年からは、高校生も三年間に一回とされた。

〈5〉 公衆衛生審議会は、平成四年九月二五日、「結核の健康診断の実施方法について」と題する提言を行ったが、その中では、「現在、小・中学校における結核患者数は著しく減少し、定期検診による結核患者発見率も著しく低下し、発見される排菌性結核患者もほとんどいない。このような状況下では、胸部エックス線集団検診の持つ意義は乏しく、今後の方向としては、廃止することが望ましい。その際には、小学校一年生時及び中学校一年生時のツ反応において強陽性の者または医師が必要と認める者に対しては、精密検査を行うが、一律の集団検診で対応するのではなく、個別に適切な医療機関等での精密検査を行い、この結果は必ず把握する必要がある。」と述べられている。

〈6〉 市教委は、本件処分時において、施行規則等に特に規定はないが、妊娠中の女子教職員、六か月以内に人間ドック等で健康診断をした者等についてはエックス線撮影の受検を免除していた。

(4)  以上によれば、定期健康診断において胸部エックス線検査を実施することについては、肺結核罹患の早期発見の見地からその医学的有用性が一定限度で存在することが依然として認められるが、その有用性の範囲については医学的に見直しの段階に入っていることが窺われ、また、これを実施する結果必然的に生じる放射線暴露による人体への有害な影響を軽視することはできないものとされ、特におよそ四〇歳未満程度の若年層では定期健康診断において胸部エックス線検査を受検することの有用性に比較してエックス線暴露によるリスクがより高いとしてこれを実施することについての医学的疑問さえ投げかけられているという状況にあること、世界的に、胸部エックス線検査による集団検診について反省・見直しの機運が顕著となり、そのような動向を受けて、わが国でもこれを縮小して実施する傾向が生まれている状況にあることが認められる。

(三) 右(二)で認定したところによれば、学保法、労安法及び結核予防法のいずれの規定を根拠とするにせよ、その定期健康診断において胸部エックス線検査を実施することの相当性について医学的な疑問が提起され、その実施が一部縮小されている状況にある上、前記二の認定事実によれば、原告は、本件処分前に、過去のエックス線暴露歴が多いとしてこれ以上の暴露を避けたい旨の意思を表明していたというのであり、しかも、結核罹患の有無の検査方法として有用性が医学的に認められ、労安法六六条一項の規定に基づく規則四四条一項等の規定によっても検査項目ないし検査方法の一つとして定められているところの「喀痰検査」を原告が本件処分前に受検した旨を近藤校長に報告し、その後判明したその検査結果には異常がなかったというのであって、これらの事情を総合考慮すれば、本件において、原告には本件エックス線検査を受検するよう命じた近藤校長の職務命令に従うべき職務上の義務はなかったものというべきである。したがって、原告が近藤校長の本件職務命令を拒否した事実が、地公法二九条一項一号及び二号に該当する旨の被告の主張はこれを採用することができない。

四  本件処分の違法性について

三で判示したとおり、原告については、原告がその職務遂行上本件エックス線検査を受検すべき義務を負う旨の法令上の根拠もなく、かつ、原告に対し本件エックス線検査を受検するよう命じた近藤校長の職務命令に従うべき「職務上の義務」も認められず、したがって、原告が本件エックス線検査を受検しなかった事実が地公法二九条一項一号に、原告に本件エックス線検査を受検するよう命じた近藤校長の職務命令を原告が拒否した事実が地公法二九条一項一号及び二号にそれぞれ該当すると評価することはできないものである。

そして、本件処分は、原告が本件エックス線検査を受検しなかった事実及び本件エックス線検査の受検を命ずる職務命令を拒否した事実が懲戒事由に該当することを前提にされたものであることはいうまでもないところ、右事実をもって懲戒事由に当たると評価することができないことは右に述べたとおりであるから、結果的には、本来懲戒事由に当たらない事実をもってこれに当たるものとし、その事実を考慮して本件処分がされていることは明らかであって、そうである以上、前記二2で認定した原告の欠勤の事実が仮にそれ自体としては懲戒事由に該当するものであるとしても、この事実だけを基礎として本件処分の適法性を云々することはもはや許されないものといわざるを得ない。したがって、本件処分は、その余の点について判断するまでもなく、違法であるというべきである。

五  結論

よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福田晧一 立石健二 理香)

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